陽だまりの樹
エピソード
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三百坂
時は安政元年(1854年)江戸時代末期の江戸小石川。伊武谷万二郎は、隠居した父の禄を継いでまだ4ヶ月。ある日、彼の師・千葉周作の臨終の席で、同じ門下生の清河八郎と意見が対立し、果し合いを演じ大怪我を負ってしまう。そこへ治療のため呼ばれた医師・手塚良庵。しかし頑固な二人は大喧嘩を始めてしまうのだった。
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良庵出帆
麻布の蕎麦屋で、偶然再会した良庵と万二郎。二人とも善正寺の住職の娘、おせきに夢中で会いに来たところだったのだ。ここでもライバル心を燃やす二人。その帰り道、見知らぬ侍たちに襲われた良庵を万二郎は、思わず助け、二人の侍を斬ってしまう。が、今度は、それが原因で万二郎は玄武館の門下生に狙われることに…。
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曾根崎新地
大阪に着いた良庵は、盲腸に苦しむ十三奴という遊女と出会う。蘭方医の彼に盲腸の手当ては許されず、現われた漢方医は役に立たない。苦悩する良庵だが…。
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嵐の前
念願の大阪・適塾に遂に入門した良庵。しかし、個性的な塾生たちや大部屋の汚さに圧倒された良庵は曽根崎新地で寝泊りを続け、勉学はおろそかに。一方、江戸で種痘所の開設に奮闘する良仙は府中藩家老の手ほどきで若年寄の遠藤但馬守に会えることになったが、そこに現れたのは種痘所に反対する幕府の奥医師たちだった…。
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安政の大地震
江戸を大地震が襲った。万二郎は人々を浜に避難させるが、そこはならず者の縄張りだった。金を払わねば斬ると人々を脅す彼らに万二郎は刀を抜くが…。
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除痘館
種痘の技術より人々への理解をと洪庵から言われ、種痘の施しをさせてもらえない良庵だったが、その時、疱瘡患者が出たという知らせがある。感染が広がらないように、町中を走り回る良庵。その頃、地震の際の功績を認められた万ニ郎は老中の阿部正弘と対面、いきなり諸外国に対して開港を望むかと尋ねられる…。
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ハリス来航
洪庵から蜷屋の娘、お品に種痘を受けさせるように言われた良庵。女性を口説く得意の要領で説き伏せようとする良庵は、お品から父が決めた許婚がいるが他に好きな人がいると相談される。そんな時、伊豆下田沖に米国使節タウンゼント・ハリスを乗せた黒船が来航。下田奉行・井上信濃守は万ニ郎に米国使節の警護を命ずる…。
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悲報と破門
ハリスの通訳ヒュースケンから、日本は下田で大砲を造っていたと言われる万ニ郎。それを井上信濃守に報告したところ、韮山に行くように言われる。そこには巨大な反射炉があった。感心する万ニ郎の前に橋本左内と名乗る男が現れ、幕藩体制をやめて中央集権にした方がいいと説く。一方、良庵のもとにお紺が現われて…。
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神田川の対決
万二郎は父の千三郎急死の知らせを受け、江戸に戻る。父の死は刺客から良仙を守ろうとしてのことと知り、仇討ちを決意する万二郎に、良仙や大槻俊斎は種痘所設立のために包みを預ける。一方、良庵は腑分けに医者以外を立ち会わせた罰として臨床学術書「扶氏経験遺訓」を一ヶ月以内に暗記せよと洪庵から命ぜられていた…。
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請願書
安政四年四月。堀田正睦、阿部正弘らがハリスが要求する日米通商条約を評議していた。勝麟太郎(海舟)とともに江戸城に呼ばれた万ニ郎はハリスの真意を問われるが、高熱にうなされ関係の無い種痘所の必要性を進言してしまう。一方、万ニ郎の請願書を受け取った勘定奉行の川路聖謨に奥医師の多紀誠斉は賄賂を渡す…。
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将軍謁見
安政四年、アメリカ使節ハリスが将軍の家定に謁見することに決まった。生まれつき体が脆弱な家定は会話もままならない。老中は奥医師を集め、一ヶ月で全治させるよう命令する。困った奥医師の一人は密かに蘭方医の伊東玄朴に相談をする。玄朴と良仙は蘭方医にとって好機と考え、良庵と万二郎を呼び名案を考えさせるが…。
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奥医師
ハリス謁見が無事終わり、胸をなでおろした良庵だったが、伊東玄朴に急用と呼び出される。玄朴によれば、寝不足と診断された将軍家定の病状に、疑問を持った奥医師の一人・多紀元迫から内密の相談を受けたという。良庵は、緒方洪庵の蔵書を調べてみようと大阪に向かう。寝ずに調べる良庵に洪庵は一冊の医学書を渡すが…。
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種痘所設立
安政五年、伊井直弼が大老になり堀田正睦は失脚した。堀田に仕えていた万ニ郎はハリスの警護役を解任されてしまう。そんな時、将軍家定が危篤状態に。奥医師として江戸城に呼ばれる伊東玄朴。突然の奥医師任命に喜びを隠しきれない玄朴。それを聞いた良仙は、種痘所設立の趣意書を老中に手渡してくれと玄朴に頼むが…。
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コロリ参上
安政五年初夏、設立された種痘所で精力的に仕事をこなす良庵。そんな時、長崎でコロリ(コレラ)で七千人死んだという知らせが。その勢いは江戸にも広がった。そしてお紺もコロリに罹ってしまう。知らせを聞いた良庵はお紺のもとに急ぐがすでに昏睡状態に。時同じくして良庵の母であるおなかもコロリに。どうする良庵…!
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投獄
安政五年七月、コロリの流行が去った江戸では大老に就いた井伊直弼が水戸藩を中心とした一ツ橋派勢力の弾圧、「安政の大獄」を行っていた。万二郎も西郷吉之助(隆盛)、橋本左内らと倒幕の密議をしていた罪で逮捕される。しかも万二郎は府中藩から脱藩扱いになっていた。良庵は万二郎を助け出そうと策略を巡らすが…。
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春の嵐
幕府の攘夷派への弾圧が激しくなる中、良庵の策により死んだことになっている万二郎は、江戸の状況を伝えようと水戸藩家老の安島帯刀に会いに行く。そこで万二郎は高橋多一郎ら尊王の志士と出会う。その頃、江戸では神田に起きた火事により、種痘所が焼けるという惨事が起きていた。再建するために大金が必要な良庵は…。
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帰還
安政の大獄が終わった万延元年夏、死人として水戸に潜んでいる万ニ郎は勝麟太郎(海舟)から呼ばれ江戸に戻る。幕臣として善福寺のハリス警護役に戻ってくれとのこと。驚く万ニ郎だが、すぐに善福寺に向かう、とそこで丑久保陶兵衛らの刺客に襲われる。陶兵衛を追って万ニ郎は、彼の家にたどり着くがそこには…。
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惜別
文久二年春、外国と対等に立つため十二月から徴兵を始めるという勝麟太郎(海舟)。それに先立ち、万二郎に手本として、農民を訓練して陸軍の重歩兵にして欲しいと頼む麟太郎。農民の訓練に苦戦する万二郎だが…。その頃、善正寺のおせきは尼寺へ出家し、良仙が危篤と万二郎と良庵の身辺は変わろうとしていた…。
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来訪者
文久二年八月、尊皇攘夷の動きが激しくなる中、緒方洪庵は西洋医学所頭取および奥医師として江戸に来ることになった。洪庵の出迎えに行こうとする良庵のもとに、水戸藩憂国の士と名乗る浪人たちが手当てを求めて来る。あまりの深い傷に他の医者に手伝いを求める良庵だが、他には知らせるなと止められて…。
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屯所付医師
文久三年春、幕府は歩兵隊の準備に伴って、歩兵組屯所付の医師いわゆる軍医を求めていた。洪庵は良庵を推挙したが、お紺がいる豊屋に姿を隠した良庵は洪庵への返事を遅らせていた。その時、お紺は歩兵組屯所造成の材木調達を一手に引き受けようとしていた。しかし、この取引に多摩屋の二代目成吉が難儀をかけてきて…。
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歩兵組出陣
文久三年十一月、攘夷と貧民救済を名目に徒党を組む浪人たち。九十九里地方では真忠組が盗人のごとく荒らし回っていた。そして、万二郎率いる歩兵組に真忠組征伐の命令が下る。しかし、歩兵たちは初陣の相手が同じ農民出身の真忠組と知り、尻込みしてしまう。屯所付医師となった良庵は一緒に出陣すると言ってくれるが…。
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暁の強襲
真忠組討伐に出発した歩兵組の前に真忠組、楠音次郎の妹である綾が現れる。幕軍の行動を聞き出すのが目的だ。万二郎は夜明けに強襲することに決定。隊長の万二郎の掛け声で、怖がりながらも突撃する兵士たち。父の千三郎を闇討ちした音次郎と刀を交える万二郎。万二郎に勝ち目はあるのか…。
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長州出兵
元治元年夏、万二郎と歩兵隊の兵士たちの前に楠音次郎の妹、綾が突然現れ、その場で倒れてしまう。江戸の評定所で拷問を受け、正気を失いかけながらも兄の仇を討ちに来たのだろう。父の仇である音次郎の妹にも関わらず、万二郎は綾を引き取るという。その頃、幕府は朝敵として長州藩を討伐する準備をしていた…。
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直訴
慶応二年、幕府軍は長州藩との激しい戦いに苦戦していた。軍医の良庵は絶え間なく運び込まれる負傷兵にやりきれない気持ちであった。万二郎は、幕府の再建を勝海舟に申し入れするが、勝は幕府をいかに終わらせるかを考えていた。そして、薩摩藩は幕府を裏切って長州藩と同盟を結び、遂に幕府は朝廷に政権を返上する…。
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夜明け
慶応四年三月十日、江戸城は開城され江戸は戦火から免れた。その頃、綾の容体は回復に向かっていた。良庵が綾の気持ちを確認することで、万二郎と綾は結婚することになった。しかし、万二郎は武士として時代に取り残されたと感じ悩んでいた。婚儀の席で、上野の彰義隊が寛永寺に立てこもっていることを聞いた万二郎は…。