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    3. アニログ小説「友人Sのひとりごと。」Episode2

    アニログ小説「友人Sのひとりごと。」Episode2

    本編

     土日をはさんで、月曜日。

    いつもどおりの時間に学校に行くと、昇降口でこの時間としては見慣れない二人組と鉢合わせた。

    「あ! おはよう佐久間」

    「おはよ」

    「おはよ。……なんだこれ。乙女ーゲか」

    花村と、飯田。割とギリギリに教室に入ってくるタイプなのに、今日は随分と早い。

    朝から顔面が騒々しい二人に出迎えられる形となってしまい、思わず素直な感想がこぼれる。

    「……佐久間、お姉さんか妹いる?」

    「姉が二人。お察しの通り片方がおたくだ」

    靴をくつ箱に放り込みながら、花村が「うちも」と困り顔で言う。

    この顔の弟。さぞ可愛がられているんだろうな(いろんな意味で)。

    唯一意味のわかっていない飯田は、特に興味もなさそうにスマホをいじっている。この感じ、おそらく女兄弟はいない。

    「……昨日俺さ、りくの家に泊まったんだ」

    「りく?」

    「ああうん。そいつ、飯田陸君っていうんだけどね? いろんな話したよ。んで、お前の話もきいた」

    「あー……」

    そういや、こちらの不適切発言の真意について、やんわりと伝えてくれとお願いをしたような気がする。

    流石仕事が早いな、と「飯田陸」君の方を見ると、真顔でピースサインが返ってきた。

    あ、そういう感じのリアクションも出来るんだ、と。

    あまりイメージにない行動に、ちょっと笑ってしまう。

    「その、ありがとう。お前が護の親友でよかった」

    「大げさな」

    「出来るなら、俺ともちょっと仲良くしてくれたらうれしいんだけど。……どうかな」

    「それは勿論。今後、どうせ巻き込まれたり振り回されたりするんだろうし?」

    俺の言葉に花村は数度目をパチパチと瞬かせると、照れまじりに「ごめんね」と笑った。

    ごめん、って。昨日何度か聞いたけど、今日のこれは悪いものじゃないなと思う。

    ――開き直り、大いに結構。

     そのまま三人で階段を登っていると、女子の視線があちこちから飛んでくるのがわかった。

    当然皆のお目当ては俺ではなく、イケメン仲良しコンビだ。

    だが二人は挨拶を投げかけられたら返事をするくらいで、基本的には無関心、無反応である。

    これが慣れというやつだろうか。この圧。俺は一生慣れそうにないんだけど。

    「あー! おはよう陸くんー!」

    「おっと。……おはよ、松田さん」

    教室のある3階に辿り着いたその時。

    牽制込みの視線の波を掻い潜り、飯田に特攻を仕掛ける猛者が現れた。

    ロケットさながらの勢い。飯田の腕に絡みつくのに精一杯で、俺と花村は目にも入っていない。

    「悠里ちゃん、俺らもいるよー」

    花村のこれは、恐らく引き気味な飯田への助け舟だろう。

    そんな花村も、ちょっと引いてる。

    そりゃあそうだろう。付き合ってもない男女の距離感としてそれはだいぶおかしい。

    そして俺も、もれなくドン引きしていた。

    理由は前述の通り。それに加えて。

    「あっごめん! おはよう花村君……と、え、ゆ、有!?」

    その馬鹿が、自分の顔見知りなのだから余計キツイ。

    「……何やってんの、お前」

    ごめん飯田。迷惑をけたな。

    心の中で謝りつつ飯田の方を見ると、飯田は顔にはてなを3つくらい貼り付けたまま俺とそいつの間で視線を彷徨わせていた。

    共通項が見当たらない。友達? 嘘でしょ。そんな顔だ。

    勿論友達ではないけれど。赤の他人よりは近い。そんな距離感。

    ――ごめんな。飯田。この馬鹿、俺の幼馴染です。

     昼休み。

    俺達は自然と、あの日と同じ顔ぶれで屋上に集まっていた。

    カップルと、その親友たち。別につるむ必要はないと思うのだけれど、一人だけクラスが違う護たっての希望だ。

    なんでも、俺が二人と仲良くしているのがさみしい、とのこと。なんでだよ。とは面倒なのでつっこんでやらない。

    「あいつ、まだそんなことしてるのか」

    話題は自然と、朝の出来事に。

    というか、二人は俺とあの女子の関係が気になってしょうがないらしい。

    「ああそうか。護も付き合い長いってことだよね」

    「俺は中学だけ。有は幼稚園からだよな」

    「なっが!」

    「長いだけだよ。仲良くはない」

    俺の顔を見るなり猛ダッシュで逃げていた彼女、松田悠里と俺は、幼稚園から現在に至るまで不思議と切れない縁により、ずっと同じ学校に通っている。

    だから仲が良いかといわれたら、決してそんなこともなく。

    ここ最近の俺に対するあいつの態度は、逃げるかキレるかの二択だ。

    これでもマシになったほうで、昔はもっとひどかった。――色々とね。

    「――松田さんって、ずっとあんな感じなの?」

    フランクな花村とは対照的に、飯田は人に対する一歩がすごく慎重なタイプだと思う。

    今も「幼馴染の悪口」にならないように、眉間に皺を寄せながら、一生懸命言葉を選んでいるのがわかる。

    「あんなって?」

    「んーと、結構、男関係派手って聞いた。距離近いし」

    けれど言葉を選んだ結果がこれだ。余程印象が悪いとみた。

    でもまあ、実際ターゲットにされてしまっているのだから当たり前だろう。

    松田悠里は顔面のいい男が好き。これはもう、学年全体に知れ渡っているし、女子から嫌われる原因となっている事実だ。

    己の振る舞いが原因なのだから、自業自得である。

    「中学のときはもう結構噂あったよな。誰々と付き合ってるとか、別れたとか」

    「小学校のときは流石にまだ……でもすっごい口が悪くて、俺はあんまり好きじゃなかった」

    「あ、そうなの」

    変に気遣わせるのも申し訳ない。

    そんな気持ちから思わず零れた本音に、飯田は目に見えて顔面の力を抜いた。

    「うん。だって、顔をあわせれば人のことをチビだのバカだの」

    そう。俺は悠里が苦手だ。

    もっと直接的な言い方をすれば、嫌いといっても差支えが無い程度に好感度が低い。

    そもそも面と向かって暴言を吐いてくる人間に、好感を持てという方が無理な話だろう。

    俺に対する態度、振る舞いは本当に酷くて。

    ――ああ、姉が見ているアニメ。あれに出てくる、悪役令嬢に似ている。

    「……佐久間、チビでもバカでもないじゃん。小さかったの?」

    「いいや別に。悪口ならなんでもよかったんだよ、多分」

    「……なんか、うん? モヤっとするな」

    何か気にかかることでもあるのか、花村はいまいち納得しきれない様子で手元の弁当箱をつついている。

    こちらとしてはモテ男にフォローされるのは悪い気がしないけれど、それ以上箸を動かすと卵焼きが悲惨なことになるので勘弁してあげてほしい。

    「まあ幼馴染イコール友達ってわけでもないし」

    こちらは納得し、スッキリしたのだろう。

    飯田はこれでこの話は終わりとでも言わんとばかりに、スマートフォンを取り出した。

    「あ、でも俺と護も、幼馴染だよ。っていっても、俺小学校の途中で転校しちゃったんだけど」

    そこに、思わぬ告白が飛び込んでくる。

    「うっかり再会しちゃったよな」

    「うっかりだね」

    なるほど。うっかりという運命らしい。

    花村と護の接点が見えなかったので、これでひとつ謎がとけたわけだけれど。

    幸せオーラを隠しもせず微笑みあう二人を直視するのが恥ずかしくて、視線をわずかにずらす。

    その先で同じく気まずそうな飯田と目が合って、俺らはそろって、苦笑いを浮かべた。

    俺はこれまで、護のこんな表情を見たことが無い。

    こいつだってモテないというわけではないけれど、女運もなければ不器用で、更に貧乏くじ体質でもあったのでなかなか成就というゴールにはたどり着けなかったのである。

    だからこんな日がくるだなんて、思ってもみなかったんだよ。

    (――幸せそうでなによりだ)

    興味はまったくないけれど、恋愛も悪いものじゃないのかもしれない。

    二人を見ていると、素直に、そう思えた。

    ――それが気の迷いであるということを、この時の俺はまだ知るよしもなかった。

     毎週水曜日の放課後。

    図書館は、格好の自習スポットになる。

    何故ならその日は休館日で、司書の先生も他の委員も来ない。

    ついでに幽霊が出るなんていう噂もあれば、余程の物好きでもない限り離れのこの建物に近寄る人はいないからだ。

    そして俺は、大体毎週、図書委員会副委員長という微妙な権限でもって合法的に使わせてもらっている。

    こういうちょっとしたお目こぼしは、日頃の行いがいいからこそ得ることが出来る特権だ。

    勿論、義務はきっちり、倍以上は果たす。

    今日もしっかり、「休日出勤」を終えてから自習に取り掛かるつもりだった。

    「……ほら、やっぱり人いない。まあちゃんが言ってた通りだ」

    「司書の先生?」

    「うん、私たち仲良しだから」

    ――侵入者が、いなければ。

    これまでもこういったことが無かったわけではないけれど、大体はどうしても本を借りたいとか、休館日を間違えたとかそういう可愛らしいアクシデントだった。

    今日のこれはまずい。なにせあちらは二人。

    しかも男女。つまり、十中八九、カップルである。

    タイミングが悪い。

    俺がカウンターに座っていれば、すぐに退散して貰えただろうに。

    なんで俺は動物図鑑なんて日頃は見向きもしないものを手に、本棚に隠れてしまっているのだろう。

    こちらの動揺をよそに、人の気配は無人を確信して俺のいる本棚エリアの奥へと入り込んでいる。

    (え、まさかおっぱじめたりしないよな)

    俺は別に、学校を聖域だなんて思ってないし、性欲豊かな高校生、まあそういうこともあるのかも?と思う程度には寛容だと思う。

    けれどこちらは紛うことなく童貞である。いきなりそのテの場面に遭遇するのは、何が何でも避けたい。

    ここで脳内に浮かんだ二択は、これだ。

    1.見つからないように逃げる。正直これが無難ではある。

    2.図書委員として、注意する。鍵を借りてしまってる以上責任者は俺で、更にいうとここは俺のテリトリーなので事後が多分精神的にきついからだ。

    「ねえ、ここならいいよ」

    「……でも、先生」

    「誰も見てないから。ね。キスしよ」

    いや、居ますけど。

    ていうか、先生? 先生っていったな、今。

    (これはまずい)

    (逃げよう)

    防衛本能と責任感の狭間でぐらぐらとゆれていた気持ちは、「せんせい」の四文字あっさりと固まった。

    見てしまったら、厄介事必至。

    男が生徒でも教師でも、スキャンダルの目撃者になるのはごめんだ。

    だが図鑑を胸に抱えたまま、そっとその場を離れようとしたその時。

    「いややっぱ、学校は」

    (ん?ていうか、今の声)

    聞き覚えのある声が聞こえて、ぴたりと足が止まった。

    「ねえ、陸くん。お願い」

    (――いやいやいやいや、だめでしょ)

    見ず知らずの他人なら、放ってこのまま逃げたけど。

    さすがにこれは、見過ごせない。

    教師と生徒の禁断の恋。大いに結構だと思うけどな。

    (それは駄目だろ。――飯田陸)

    「待った。」

    ――友達じゃなければ。

    アニログ小説「友人Sのひとりごと。」Episode1

    アニログ小説「友人Sのひとりごと。」Episode3

    アニログ小説「友人Sのひとりごと。」Episode4

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