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    アニログ小説「おふ恋」Episode6

    本編

    【第三章:二】

     馴染みのネカフェで開催された我らがギルド秋のオフ会は、大変な盛り上がりを見せていた。バフを課金勢並みに使ったことで見事ランクインを果たし、トップレベルの報酬を得ることができたのだ。

    「それでは、レイドイベントランクインを記念して、カンパーイ!」

    珍しくリアルユージーンが大声を張り上げる。スイッチさえ入れば、常人の振る舞いはできるらしい。

    「いやぁ、それにしても爽快やったなぁ、あの戦いは」

    「ほんとほんと、私お家でひとりなのにやったー!って叫んじゃったわよ」

    「そうですねぇ、いやぁパラディンである僕の存在感が薄くなった感はありますが、あんなに強固だったモブ勢を瞬殺できるなんて最高でしたな、それに……」

    ユージーンは饒舌だった。今まで溜め込んでいた話せないストレスを放出するかのような弾丸トークが延々と続く。

    一方おしゃべりなユースケはというと、ちゃっかりスウの横に座って、彼女の携帯を覗いていた。

    できない弟の恋路を温かく見守るような目線で俺は彼のことを眺めていた。色々と騒々しく、台風のように人を巻き込んで来るこいつであるが、ただ何となく憎めない。

    キャンディに恋焦がれていた時の自分を見ているようで、愛おしさを感じているのだろうか。

    結果がどうであれ、あの頃の自分は真っ直ぐで、前向きで、浮かれ気分で楽しかったと言えば、そうなのかもしれない。

    「今日はお前、静かやのう」

    マリオネットがユースケの方を向いてそう言った。

    「だって俺、わかんないんすもん、ゲームのこととか」

    ネトゲのオフ会でよくもそんなことが言えたものだな。

    「そんなんだからいつまで経っても上達しないのだよ、お主は。まずあのリアリティを追求した壮大なるグラフィック、そこに陶酔するのだ。次にファンタジーの世界で巻き起こるストーリーを存分に堪能し、妄想を膨らませる。例えば俺だったらそうだな、パラディンとして仲間を守り、敵に屈せず、強くなるにはどうすればよいのかを常に考え……」

    「レイド来た」

    「レイド来たかーーー!」

    己の話を遮ったスウを更に被せてきたユージーン。

    「また個室っすか?」

    とユースケが難色を示す。

    「当たり前だ、発狂とかをしても迷惑にならないだろ」

    ユージーンは発狂しているのか……

    「えー、もっと違うことしましょうよー、カラオケしたりとかー」

    「ギルドのオフ会や、レイドありきに決まっとるやろ」

    ユースケを制すマリオネット。

    「ほら、持って行きなさい」

    どら焼きを配るキャンディ。

    勇ましい表情でそれぞれが向かう個室はまるで、戦闘用ロボットのコックピットにさえ見えてくる。

    ユージーン:よっしぁ、それじゃあ早速始めようではないかっ!

    情熱のバフは常に全開のユージーン。

    マリオネット:この前使っちまった分また取り返さな

    スウ:場所は精霊の間の紫の魔法陣を通った先

    ナイトレイ:了解

    「紫のやつねー」

    だみ声の美女白魔導士キャンディが精霊の間へ走る。リアルとバーチャルの不具合をどうしても感じずにはいられない。

    そして一行はうねうねと蜃気楼のように漂う紫色の魔法陣をくぐり抜けた。

    ユージーン:では、出陣!

    スウ:ひとり足りない

    ナイトレイ:俺います

    「いるわよー」

    マリオネット:あいつや

    再び紫の魔法陣をくぐり抜ける一行、精霊の間に戻る。

    そこには手をだらりと下に垂らし、ぼーっと上方を見上げるハンター、スケスケがいた。

    ユージーン:おいっ! スケスケ!

    マリオネット:おい、はよせいや

    スウ:いないみたい

    ナイトレイ:トイレじゃないっすかね

    いや、トイレではなかった。

    スケスケは俺の後ろにいた、リアルの方に。ノックもせずドアを開けちょっと入ったところで立ち止まっている。

    するとへの字口から泣き言が溢れ出した。

    「もうこんなんじゃ距離を縮められないっすよ、どうしましょう、ナイトレイさーん」

    「みんな、探してるよ……」

    「いや、ここにいますけど」

    リアルじゃない、バーチャルの方だ!という意味を含め、パソコンを指差す。

    「だって、せっかくレイドイベント頑張ったのに、これじゃあ意味ないじゃないっすかぁ」

    お前はバフ全開にしてもらって逃げただけだろ……

    さあ、どうしよう、また妙案を練れば以前のように超激レアアイテムを散財することにもなり兼ねない。

    するとパソコンのチャット欄には、

    ユージーン:スケスケはまだかっ!

    マリオネット:こいつマジあかんわ

    スウ:ギルド追放しましょう

    という文字を確認、同時に包み紙を開けるガサガサという音が聞こえる。

    「君をギルド追放しようって話が出てるが」

    と再びパソコン画面を指差して言うと、「それはマズイ!」と顔面蒼白で持ち場へ帰って行った。

    スケスケ:すんません、トイレ行ってました!

    ユージーン:遅いぞ!

    マリオネット:大の方か

    スウ:行きましょう

    険悪な空気がビシビシと伝わる中、何とかレイド討伐成功、報酬をゲットした。

    マリオネット:はぁーもう疲れたわし

    ナイトレイ:報酬ほんと有難い。ストック空なんで

    ユージーン:また貯め込んでイベントの時にガツーンと使おうなっ!

    「イベント、楽しみねぇ」

    共にゴクゴクとオバハンの喉を潤す音が聞こえる。

    スウ:スケスケはちゃんと貯めてる?

    スケスケ:何がっすか?

    ユージーン:報酬だよっ!

    スケスケ:あー、これ貯めといた方がいいんすね

    マリオネット:お前まさか使ってへんやろなぁ、この前のやつ

    スケスケ:何がっすか?

    ユージーン:報酬だよっ!

    スケスケ:じゃ、これから貯めるっす

    その後バタンッ! とドアが乱暴に開く音がした。

    嫌な予感、俺は自室から外へ出ると、ユースケの個室の方を見た。

    そして予感は的中、ユージーンが物凄い剣幕で無防備なユースケがいるであろう個室のドアを勢いよく開き、乗り込むところを確認した。

    まさか殴るんじゃないだろうな……

    サイコパス、という言葉が脳裏を過る。

    血の気が引き、一目散にそこへ駆けつける。

    するとパソコンにかぶりつくユージーンが部屋の奥にいた。スケスケは席を追い払われたのか、その横に立ち、前髪をいじっていた。

    今前髪を気にしてるばやいではないだろっ!

    「ユージーンさん……」

    という言葉を投げかけると、彼はガクンと机に突っ伏し涙声で嘆いた。

    「使っちゃってる……全部……」

    「マジか、アホめ」

    背後からはマリオネットの声。

    「へっ、ふぉの前のふぃベントのふぉーしゅーも? じぇんぶ?」

    もぐもぐと、どら焼きだろうものを口に含むキャンディの声。

    そして最後にスウの声がした。

    「追放、ですね」

    アニログ小説「おふ恋」Episode1

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