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    3. アニログ小説「おふ恋」Episode2

    アニログ小説「おふ恋」Episode2

    本編

    【第一章:二】

     一行はとあるカフェに移動、ソファに座る五人の顔は、お洒落な白熱灯にぼやっと照らされていた。

    そんな中俺は時折、ズル、ズルとコーヒーをすすりながら、スウの帽子のSmashと書かれたロゴあたりを眺めていた。他は皆悪い意味でギャップが激し過ぎて、直視できないのだ。

    「それにしてもユージーンには驚いたわねぇ、想像と全然違うんだもの」

    「って、お前が言うかっ」

    「っさいわねぇ、言っとくけどあんたも想像と違いましたからねっ、おじいっ!」

    一触即発のキャンディとマリオネット。

    レイド討伐では息の合った二人であったが、リアルではどうやら犬猿の仲となりそうだ。

    このままどうなってしまうのか、オフ会を開いたのは俺であり、パンドラの箱を開けてしまった責任が多分にある。

    スウは相変わらず黙々と携帯をいじり、ユージーンはその隣で背を丸くし、息を潜めていた。

    ゲームの世界ではリーダー的存在だった彼、号令をかけ指示を出し、闘志に満ち溢れた勇敢なあのパラディン・ユージーンは見る影もない。

    「ほら、どら焼きいる?」

    ユージーンの目の前にどら焼きが差し出される。

    「あ、あの、持ち込みはちょっと……」

    「いいじゃないの、コーヒー買ったんだし」

    俺の言うことを聞かず、どら焼きを配り始めるキャンディ。

    「おお、中々うまいやないか」

    「あなたわからずやだけど、味はわかるのねぇ、マリオネット。ここの駅ビルの地下にあるのよ美味しいお店が」

    「美味」

    「そうでしょう、スウちゃん。ほら、ユージーンも食べて、ナイトレイも」

    公共の場でその名前を立て続けに呼ぶのは、やめてくれないかな、キャンディ……

    「お……美味しいです」

    とユージーンのリアクションに満足気なキャンディは、ラストの俺のリアクションを求めこちらを見る。

    ここは波風立てず素直に従っておこうと包み紙を広げ、パクッと一口頬張った。

    うん、うまい、うまいが、俺の心の傷はこれしきで癒えるほど浅くはない。

    「それにしても大人しいなぁお前。ここの誰よりもオフ会を楽しみにしていた奴だと思っとったが」

    その理由はだなマリオネット、あなたの隣に座っているオバハンのせいだと正直に言えば、俺はこのギルドから間違いなくBANされてしまうだろうさ。

    だが、そもそもキャンディに非はなく、悪いのは俺の方なのだ。マリオネット同様、こんな『(*ฅ•̀ɷ•́ฅ*)ガォー』顔文字や、あんな『(๑>ڡ∂๑) テヘペロ』顔文字を巧みに使いこなせる人間など、きゃわゆい乙女女子しかいないと信じて疑わなかったのだから。

    今よくよく考えれば確かに彼女の誤変換は多い上、カタカナが少なく、コメントの上がり方にもタイムラグが感じられた。

    文字の入力慣れをしてない人間の典型、つまりそこからテクノロジーに疎い年齢層であるということを導き出さねばならなかったのだ。

    ただ、話の流れでひとりもんだ、と聞いていた筈なのだが……

    「あの、キャンディさんは、ひとりもんだと言ってたかと思うけど、娘さんがいたんですね」

    「そうよ、うちには私ひとりなのよ。娘も出て行って、夫も単身赴任中。なーんにもすることがなくなって、このゲームに出会ったってわけ」

    「っておい、どら焼き何個食うとんねん」

    「っさい、マリオネットっ、もう、回復してやんないからねっ!」

    まあまあ、と双方を宥めようとすると、スウが突然口を開いた。

    「恋心、抱いてたんでしょ、キャンディに」

    グフッ

    「え、マジか。確かになぁ、俺かてかわゆい女子(おなご)を想像しとったがな」

    「あらやだぁ、みんなったらぁ」

    マリオネットの言葉にいじらしく反応するキャンディ。食べかけのどら焼きを片手に、両手で顔を覆っている。

    それを5つ平らげても発動しなかった羞恥心を、ここに来て発動させるのか、君は。

    「もしかしてその薔薇、あげる気だったんじゃぁ……」

    ユージーン、君は臆病で言いたいことも言えないタイプなんだろ? どうしてそんなことを勇気振り絞って言う必要性があると思った? こいつらは寄って集って俺の傷心を抉りに来ているようだな。

    そしてキャンディ、そんな潤った目で見つめないでくれ、そして頬を赤らめないでくれっ、俺が引き続き君にぞっこんLOVEしているみたいじゃないかっ!

    「残念だな、既婚者だってよ。ちなみに俺は、独身だ」

    マリオネットが立てた親指を自分に向け、ガハハッと高笑いした。

    こいつら黙って聞いていれば口々に言いたいことを言いよって……

    すると「レイド情報、入った」とスウが呟く。

    「え、マジで? 今日はないと思っていたのだがっ」

    ユージーンの声色が豹変、スウの携帯をガバッと覗き込んだ。

    「どうする?」

    スウは画面へ目を向けたまま聞く。

    「私なら時間あるわよ、ほら、独り身だから」

    ほらな、その言い回しが物事をややこしくさせるのだよ、キャンディ。

    「それは俺のセリフだぜ、時間ならたっぷりあるさ」

    男前に決めようとするなマリオネット、ただの暇人だろう。

    「やりたいよなっ、なっ、やりたいよなっ、みんなっ!」

    血眼のユージーン。

    「ネカフェなら徒歩5分のところに小さいのが一か所、10分のところに大きいのが一か所」

    スウが速攻で調べ上げると、皆そそくさと移動する準備を始めた。

    ランダムに出現するモブは暇人無課金勢のお得物件。超レアアイテムドロップの可能性が高いのだ。

    「さっそれではみんなっ、出陣だっ!」

    ユージーンの張り上げた声に、周りでコーヒータイム中の客の視線が一斉に集中した。

    「何系のモンスター?」「火のエレメント」「じゃあ武具は、氷や水のエレメントがいいな」などと語り合いながら、金曜夜の雑踏をすり抜け目的地を目指す。

    するとやがて、『マンガ・インターネット・完全個室』と書かれた看板が目に入った。

    「あそこだなっ、いざいかん!」

    テンション冷めやらぬ、いや、むしろ増し増しになったユージーンを横目に、皆入店し手続きを済ませ、それぞれのパソコン部屋に入ってドアを閉めた。

    ユージーン:さぁさぁ、かかってこんかーい!

    ログインすればギルド酒場にアバターが出現、パラディンユージーンがその場でジャンプ、飛び蹴りをして『ウォーミングアップ』をしていた。

    マリオネット:ほな、いこか

    場所は洞窟内、地底にあるマグマの吹き溜まり。映像だけで熱を感じてしまうほどリアリティ溢れるグラフィック。

    ギャオォーーー!

    ヴォンヴォン

    一行を待ち受けていたのは両翼を大きく広げた一角竜だった。もはや敵もテンション高めか、いきなり火炎噴射をお見舞いされる。

    マリオネット:もろにくろたー

    ナイトレイ:回復お願い!

    ユージーン:みんなっ、気をつけるのだ!

    キャンディ:はあい

    スウ:敵は下降してくるはずだから、その時がチャンスかも

    ユージーン:それじゃあ、私がおとりになってやろうじゃないかっ!

    ――そして死闘の末、遂にモブの討伐が成功した

    へとへとで家に帰った時にはようやく、胸のバラがすっかり萎れていることに、気づいた。

    アニログ小説「おふ恋」Episode1

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